リスクを事前に減らす

■ リスクヘッジが大切

どんなに準備をしても、トラブルは発生します。
 そして、往々にして、トラブルは人生の最も大切な瞬間に、最も悲惨な形で発生します。
 大切なプレゼンで、パソコンが動かなくなった。結婚式のスピーチで、マイクがハウリングした。原稿をメモした紙を入れたはずの上着のポケットに、飲み屋の領収書が入っていた。
 そんな経験をした人は、実は世の中に多くいます。
 本当にどうしようもないトラブルは、本当にどうしようもないのであきらめましょう。
 でも、それ以外については、想像力をもって備えておくことが大切です。
 そして実は、「私、あがり症なんです」という人程、備えを怠っていることが多いのです。
 準備をするときは、自分でコントロールできることに集中しましょう。
 衣装(当日の服装)は、きつすぎませんか?
 自分を良く見せようとしてワンサイズ小さい服を選んだり、高いヒールの靴を履いたり、ネクタイを締めすぎたりするのは、できるだけ避けたほうがよいでしょう。
 前日はリラックスして過ごせましたか?
 もし、自分の「舞台」の日が決まっているなら、前日はリラックスして臨むことがベストです。ここでのリラックスとは、気持ちの問題はもちろん、ノンカフェインで過ごす。食べ過ぎない。スケジュールに(できれば)余裕を持つ。などが当たります。
 できれば、会場を下見し、話す相手にあいさつをし、握手のひとつでもしておきたいところです。いざ、舞台に立ったとき、周りがよく知らない、自分の敵かもしれない人たちの集まりであるのと、自分がよく知っている、心を許した友人である場合、あがる危険性は大きく変わってきます。もちろん、初手対面の人といきなり親友になるのは難しいでしょうが、それでも友好的な人を一人でも多くする努力をすることは必要です。
 会場には余裕をもって入りましょう。交通機関は、本番の朝、必ず遅れると思いましょう。
 そして最後に、あがり症を克服するために最も大切なことは、自分がうまくやろうとしないことです。自分のためにやること。それこそが、最大のリスクです。
 相手のために、自分ができることは何か?
 心からそう思って臨んだとき、あなたのあがり症は克服され、待っているのは称賛の拍手でしょう。

暗記をしてはいけない!

■ あがり症を克服したいなら、原稿は暗記するな

緊張や、あがり症による失敗を減らすための、行動面での大切なことは、しっかりと準備をすることです。
 ここで準備というと、原稿や、セリフを暗記することをイメージする人が多いかもしれません。なぜなら、「原稿は暗記しましょう」というアドバイスは、小学校の発表から結婚式のスピーチまで、幅広く行われるからです。
 たしかに、覚えてしまうぐらい練習するのは大切なことです。
 でも、暗記することが目的になってしまうと、あがり症を助長することになってしまいます。なぜなら、「正しく、一言もまちがえず、覚えたとおりに話せなければ失敗だ」
 そんな意識になってしまうからです。
 人前で話すことは、たとえて言うなら旅のようなもの。スタートがあり、大体の順路をたどってゴールする。
 そんな旅の中で、途中の道のりが全て細かく決まっていて、その通りにしなければいけなかったらどうでしょう?
 息苦しいし、楽しめないですよね。
 原稿を守ろうとしすぎることは、順路を守ろうとしすぎることに似ています。
 政治家の答弁や、企業で不祥事があった時の説明などは、正確で誤解を与えない表現が非常に重要になりますので例外ですが、そうでなければ(そして、私たちの日常の話す機会は、ほとんどそうではありません)、むしろ暗記はしないほうがよいのです。
 一度原稿を書いたら、絶対に言いたいこと、言わなければいけないことの優先順位を決めていきます。結婚式のスピーチなら、「結婚おめでとう」は、多分絶対言わないといけないですよね。逆に言えば、これだけ言ってもいいわけです。どうでしょう。「結婚おめでとう」だけ言えばいいと思うと、気が楽になってきませんか?
 でもまあ、さすがにそれだけでは… と思うので、次に自分自身の、おめでとうという気持ちがどんなもので、なぜ生まれたのか、順を追って考えていきます。
 準備をするときは、まず自分が最も伝えたいことを考えましょう。「これだけ伝えられれば、自分としては満足」ということさえはっきりしていれば、気持ちに落ち着きを与えることができます。

呼吸が大切なワケ

■ なぜ呼吸で落ち着けるの?

呼吸を意識してみた。でも、これがなんの役に立つの?
 そう思う方もいらっしゃるかもしれません。
 キーワードは、「フォーカス」です。
 皆さんは、勉強や本やゲームに集中している時、周囲の音が聞こえなくなったことはありませんか?
 音は、消えていないにもかかわらず。
 これが、「フォーカス」です。
 私たちの脳は、五感から膨大な量の情報をインプットしています。ですが、その中で、はっきりとわかることは、ひとつの瞬間にひとつ、と言われています。
 呼吸に「フォーカス」することは、これをある程度、自分の意識でコントロールすることです。
 つまり、「ちゃんとしないと」とか、「失敗したらどうしよう」といった意識にフォーカスしそうになる意識を、呼吸にフォーカスさせることで、緊張のもととなる感情から自分の意識を離すのです。
 人前でスピーチする緊張の一瞬。
 でも、そんな時でも誰もが呼吸をしています。
 その、自分の呼吸に意識をフォーカスし、「今、早いな」とか「もっと深く息をしよう」と考えることで、自分自身をコントロールすることができます。
 ちなみに、生物学的には、浅く、早く呼吸をすると緊張を高め、深く、ゆっくり呼吸すると緊張を緩めることができるそうです。
 今回は、緊張を緩めるテーマなので、深く、ゆっくりをお勧めしていますが、逆にテンションが低いな、と感じる時や、仕事や授業の途中なのに眠い、というときは、浅く、早く呼吸をすることを意識してみてもいいかもしれませんね。
 一番身近で、しかも私たちの体と、意識に深くかかわる呼吸。ここにフォーカスし、コントロールすることが、あがり症の克服に大きな効果があります。
 もうひとつのフォーカス。
 それは、視点のフォーカスです。テレビやスマホ等を見ている時、先ほどの呼吸を意識しながら、四つの隅を順にみていってください。一つの隅で、3~5呼吸を意識するとよいです。この練習は、スピーチや発表当日の会場でも同じです。
 会場の四隅を、3~5呼吸ごとに視点を移動させながら見ることで、自分自身が落ち着けるだけでなく、聞いている人からも落ち着いている、と見てもらうことができます。